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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)3191号 判決 1975年1月30日

昭和四五年(ネ)第三一六三号事件控訴人

昭和四五年(ネ)第三一九一号事件被控訴人

第一審原告 全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長 石井平治

右訴訟代理人弁護士 金子光邦

同 松崎勝一

同 小野谷三郎

同 村田茂

同 竹田勲

同 中島通子

同 田中英雄

同 渡辺泰彦

昭和四五年(ネ)第三一六三号事件被控訴人

昭和四五年(ネ)第三一九一号事件控訴人

第一審被告 佐藤幸作

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 瀧内礼作

山本位士待を除く右五名訴訟代理人弁護士 村松俊夫

主文

一  第一審原告の第一審被告三品竹雄、第一審被告及川潔、第一審被告宮本保彦に対する本件控訴はいずれもこれを棄却する。

二  第一審被告佐藤幸作、第一審被告三品竹雄、第一審被告及川潔、第一審被告浅井百合子、第一審被告宮本保彦の本件控訴はいずれもこれを棄却する。

三  原判決主文第一項、第二項のうち第一審被告佐藤幸作、第一審被告浅井百合子、第一審被告山本位士待に関する部分、同第三項を次のとおり変更する。

1  第一審被告佐藤幸作は第一審原告に対し金七万九、一四六円及びこれに対する昭和四三年六月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審被告浅井百合子は第一審原告に対し金九万〇、六一四円及びこれに対する昭和四三年六月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告山本位士待は第一審原告に対し金六万七、三四〇円及びこれに対する昭和四三年六月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  第一審原告のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

6  この判決主文第三項1ないし3につき仮に執行することができる。

四  原判決主文第一項のうち、第一審被告三品竹雄に対し金員の支払を命ずる部分、第一審被告及川潔に対し金員の支払を命ずる部分、第一審被告宮本保彦に対し金員の支払を命ずる部分につき、仮に執行することができる。

事実

第一審原告代理人は「原判決を次のとおり変更する。第一審原告に対し、第一審被告佐藤幸作は金七万九、一四六円及びこれに対する昭和四一年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審被告三品竹雄は金七万四、七六八円及びこれに対する昭和四一年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審被告及川潔は金四万〇、三五二円及びこれに対する昭和四一年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審被告浅井百合子は金九万〇、六一四円及びこれに対する昭和三九年四月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審被告山本位士待は金六万七、三四〇円及びこれに対する昭和三八年一二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、第一審被告宮本保彦は金五万一、三八〇円及びこれに対する昭和四一年四月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、第一審被告ら(第一審被告山本位士待を除く。)の控訴につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告ら(第一審被告山本位士待を除く。)代理人は「原判決中第一審被告ら敗訴部分を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」旨の判決を求め、第一審原告の控訴につき、第一審被告ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、それを(被告宮川善信に関する部分を除く。)ここに引用する。

(第一審原告の主張)

一  (返戻額算出方法の合理性)

原判決は、結局本請求における返戻の額が、補償金の総額から組合員資格喪失時までの損失補償相当額を控除した額を上まわるからその限度で細則一五条の改定は第一審原告と組合員との間の法律関係を形成する性質をも有することとなり、右改訂前に補償事由が発生した補償金について同規定は当然には適用されないという見解に立っている。ところで、右立論は補償金の算出基準となる昇給額が補償事由発生時の額であることを当然の前提としてはじめて成り立つ。しかし、第一審原告が一括前渡しの方法で補償を行なっていた際の補償額算出基準には補償事由発生時の昇給額と将来の昇給額の差額を調整した昇給間差額が用いられた。これは昭和三五年当時次のとおりであった。

補償事由発生時の昇給額 昇給間差額

一、五〇〇円以上 一、五〇〇円

一、四〇〇円迄  一、四五〇円

一、二〇〇円迄  一、四〇〇円

一、一〇〇円迄  一、三五〇円

一、〇〇〇円迄  一、三〇〇円

九〇〇円迄  一、二五〇円

八〇〇円迄  一、二〇〇円

六〇〇円迄  一、一〇〇円

但し本俸一〇、〇〇〇円を越ゆるものについては一、一五〇円

したがって大多数の組合員にとって補償事由発生時から一定期間の補償額は実際の損失額を越えており、とくに若年組合員の場合、当初補償額は実損額を二倍近く上まわり、その期間も長期にわたることになるのであって、原判決の認定とは反対に改訂後の細則一五条に定める返戻割合で算出された返戻額は、補償額の総額から組合員資格喪失時までの損失補償相当額を控除した額を下まわるのである。補償額算出につき右の方法がとられているため、これを返戻する場合組合員資格喪失時までの損失補償相当額を算出することは煩瑣をきわめることになり、第一審原告組合のような大組織(組合員数約二四万名)にとって事務処理を出来る限り簡略化する必要上細則一五条(六)による計算方式をとったものであるが、この方法によって算出された返戻額は相当なものである。

二  本請求の返戻額は、支給年数から組合在籍年数(一年未満は一年とする)を差し引いた残余の年数を比率とする単純比例計算によって算出している。ところで補償金の算出にあたっては、昇給延伸によって毎年生ずる損失のほか、退職金における損失も加算されている。組合員資格喪失後の損失補償分を全て返戻させるという建前からすれば退職金減少に対する補償分は全額返戻させるべきところ、本請求においてはこれを全体にならして単純比例の方式をとっているから、この点においても返戻額は実際の返戻相当額より下まわる。

また、組合在籍年数の計算につき一年未満の端数を一年として、脱退者らに有利にしていること、補償金の算出につき実損のない者に対しても退職金及び期末手当損失分が加算されている(例えば昇給期が七月、一月の者は延伸されても期末手当に影響ないが一率一・五ヶ月分加算)など実損以上の補償を行なっている場合が多いことなどを考えれば、改訂後の細則一五条に定める返戻割合で算出された返戻額は、補償額の総額から組合員資格喪失時までの損失補償相当額を控除した額を下まわるのである。

その上、原判決が返戻方法として判示しているとおり(原判決理由一、(五)2(1)(ⅰ))返戻相当額に年五分の利息を附するとすれば、支給時より一〇年以上経過している現在、その額は明らかに本請求額を上まわる。すなわち本請求額は原判決が返戻すべき金額として判示している額より少いのである。

これらの事実を勘案すれば、補償金の支給がホフマン式計算方法によっていることを考慮しても、なお細則一五条(六)の割合による返戻額は資格喪失後の相当分をこえることにならず、右算出方法は合理的かつ妥当なものであり、労働組合の犠牲者救済制度の本質及び規定八条二号の趣旨の合理的解釈の範囲内の確認的規定であるというべきである。

三、原判決は、昭和三六年七月二〇日以前に補償事由が発生したものについては、「支給を受けた補償金の総額から、組合員資格喪失時までの損失補償相当額を控除した額に年五分の利息を附して返戻すれば足りる」と判示している。(理由一、(五)2(1)(ⅰ))

そこで、本件第一審被告について右方法により返戻相当額を算出してみる(現実の損失額を当該人の実際の昇給額によって計算する。)。

(第一審被告浅井百合子の場合)

補償事由 昭和三六年四月一期延伸

当時の年令 二二才

支給基礎年数 三八年

組合在籍年数 四年

昇給延伸時の俸給 普通職三級九号

昭和三六年の俸給表

普通職三級九号 一一、五〇〇円

同一〇号    一二、三〇〇円

昇給額        八〇〇円

同一一号    一三、一〇〇円

同          八〇〇円

同一二号    一三、九〇〇円

同          八〇〇円

同一三号    一四、八〇〇円

同          九〇〇円

(昇給期間はいずれも一年)

①800×4.5月×3年+900×4.5月=14,850……組合員資格喪失時までの損失補償相当額

②88,400-14,850=73,550……支給額より①を控除した額

③73,550×0.05×4年=14,710……②に対する組合在籍中の年五分の利息

④73,550+14,710=88,260……返戻相当額

ところで、細則一五条による返戻額は88,400×34/38=79,094であるから、右のとおり原判決の判示する方法によって算出した返戻額より大きく下まわるのである。なお、正確には右①の金額より中間利息を控除すべきであり、そうすればこの算出方法による返戻額はさらに高額になる。

(第一審被告佐藤幸作の場合)

補償事由 昭和三六年七月一期延伸

当時の年令 三七才

支給基礎年数 二三年

組合在籍年数 六年

昇給延伸時の俸給 外務職二級一二号

昭和三六年俸給表

外務職二級一二号 二八、三〇〇円

同一三号     二九、七〇〇円

昇給額       一、四〇〇円

同一四号     三一、一〇〇円

同         一、四〇〇円

同一五号     三二、五〇〇円

同         一、四〇〇円

同一六号     三四、〇〇〇円

同         一、五〇〇円

(昇給期間は一二~一三、一三~一四、一四~一五が一五ヶ月、一五~一六が一八ヶ月であるから、同被告の組合在籍期間中の昇給は外務職二級一六号俸までである)

①1,400×3月×3年×1,500×3月=17,100……組合員資格喪失時までの損失補償相当額。なお同被告は昇給期が七月なので一時金へのはねかえりはないから三ヶ月の延伸補償のみで足りる。

②88,900-17,100=71,800……支給額より①を控除した額

③71,800×0.05×6年=21,540……②に対する組合在籍中の年五分の利息

④71,800+21,540=93,340……返戻相当額

ところで細則一五条による返戻額は、88,900×17/23=65,708であるから、同被告のような場合には、②に利息を付すまでもなく、本件請求額の方が下まわり、利息を付せば支給額をこえることになる。

四、救済規定の改訂と公平の原則

第一審原告は昇給延伸による損失補償の方法として、昭和三〇年には損失が現実化した時点でその都度補償する方法を採用したが、同三一年からは五年ごとに補償する方法をとり、さらに同三五年からは六〇才に至るまでの損失を一括して前渡しする方法を採用した。その後同四〇年には再びその都度補償方式に戻り現在に至っている。これら補償方法の変遷は財政上の問題と計算事務手続上の便宜から行なわれたものであって、この間本件制度の本旨、補償金の性格等には何らの変更はない。

第一審原告は、昭和三六年七月二〇日細則一五条(六)に脱退等組合員資格を喪失した場合の補償金返戻方法を明記したが、これは前記本件制度の本旨と規定八条二号の解釈の当然の結論である一括前渡方式を採用した場合の返還義務を具体的に運用細則で示しておくことが便宜であることから、注意的、確認的に明文化されたものである(「規定」に定められたのではないことに注意されたい)。

前渡方法を採用した同三五年の大会では、当初本部提案が五年毎補償とその後の一括補償の二段階方式であったものを、それでは手続が煩さであるということから一括補償一本に修正されて可決されたという経過から、同大会では返戻方法の具体的な定めまでなされなかったのであるが、一括前渡方式によって当然問題となりうる組合員資格喪失後の返還義務については同大会において明確に確認されていたのである。またその他昇給期間の変更により実損がなくなった場合等の返戻方法についても本件制度の具体的運用の問題として犠牲者救済委員会に委されていたのであるから、当然発生する返還義務の具体的履行方法については、それが不合理なものでない限り運用の責任にあたる中央執行委員会及び犠牲者救済委員会に委任されていたものであるが、これをさらに明文化しておく方が妥当であることから三六年の細則改訂を行なったものである。

三六年細則改訂前の補償該当者について、補償金算出方法及び支給方法は右改訂後と全く同一の方法すなわち細則一五条の(一)ないし(五)の方法によって行なわれている(三五年より以前の者については三五年改訂により同条項が適用され残額が追加支給されて精算されている)。この点とこれまで述べたところと総合して考えるならば、三六年改訂の細則一五条(六)は、その施行後に補償事由が生じた者に対してのみ適用されるのではなく、全く同性質の補償を受けた組合員全員に対し適用されるものと解さなければかえって公平の原理、組合員平等の原則に反するのである。

以上によって明らかなとおり細則一五条(六)は組合員に対し新らたな義務を課したものではなく、制度の本旨、補償金の本質的性格及び規定八条二項によって当然発生すべき組合員資格喪失後の損失補償分の返戻義務を確認したものであり、また公平の原則、組合員平等の原則からいってその適用を同条項の明文化の前後により区別することはできないから、経過規定をまつまでもなく、同条項は昭和三六年七月二〇日以前の補償金受給者に対しても適用されるというべきである。

五、第一審被告らの主張一は争う。

六、第一審被告三品、同及川、同宮本に対する関係については、遅延損害金の請求の一部が排斥されたことに不服があるものであるが、これについては特にあらたな主張・立証はしない。

(第一審被告らの主張)

一  犠牲者救済制度は全組合員の全く平等な出資の基金を以て一部の組合員が全体の組合員のために犠牲を強いられたことに因り蒙った損害を全員平等に補填しようとするものである。その補填を、組合脱退者には、懲戒処分による除名者と同等に、これを返還させるという制度は、たとえ組合の規約改正によるとしても、正当な権利として脱退する者に不当な不利益を加え、特定の組織強制の具にするものであって無効といわなければならない。まして、このような制裁規定を類推解釈したり遡及適用したりすることは許されないものといわなければならない。第一審原告組合が数十万人の組合員のうちわずか一%前後の組合の「拠点」と称する一部局を指定して部分ストを命じ、その命ぜられたストに参加した組合員はそれによって賃金カットや賃金上の不利益を蒙る懲戒処分をうけた場合、この経済的不利益はストライキを命ぜられた組合員のみにおいて甘受すべきものであるとするならば、かかるスト指令の強制は、それ自体、組合員の平等の規定は勿論、特にかかる組合規定の設けられていない場合であっても、組合員平等の原則に反することは多言を要しない。そこで、いずれの組合においても、部分ストによる賃金カット分は全組合員の平等分担によってこれを補償し、その他のスト参加による不利益処分についても、犠牲者救済資金から償われることによって組合員の平等が保証されているのである。いずれにしても、部分スト参加によって一部の組合員にもたらされた経済上の不利益は、全額補償されるべきものであり、その全部、もしくは一部分でも補償されないとすれば、それは不平等取扱ということになるのである。それであるからこそ、第一審原告は、当初、その損失の全額を補償し、かつ、一旦補償したものは、脱退の場合においても返戻させることなど考えてもいなかったのである。しかるに、最近になって第一審原告の政治斗争的ストライキに反対して脱退する者が増加するに至ったため露骨にも脱退者に対してのみその返戻規定を新設し、あえて、組合員平等の原則を蹂躪するに至ったものである。

二、第一審原告の主張一ないし三の事実は不知、なお返戻額算出方法の合理性の主張について特に反論はしない。

三、第一審原告の主張四は争う。

(当審におけるあらたな証拠)≪省略≫

理由

一  補償金返戻請求権の成否

原判決理由一(原判決一五枚目表三行目「(一)当事者」以下同二二枚目表四行目「立証がないというほかはない。」まで)を次のとおり訂正して引用する。

1  原判決一八枚目表六行目「しかしながら、」以下同裏四行目「否定できない。」まで全部を左のとおり訂正する。

「そして、叙上の争いなき事実及び認定事実並びに≪証拠省略≫によれば、右細則は、支給年数から組合在籍年数(一年未満は一年として計算)を差し引いた残余の年数を比率とする単純比例計算によって返戻額を算出する方式をとっていること、第一審原告が一括前渡方法で昇給延伸による損失の補償を行った際の補償額算出基準には、補償事由発生時の昇給額と将来の昇給額とを綜合的に考察しその間差額を平均するなどして調整した昇給間差額(以下調整間差額という。)が用いられ(昭和三五年当時の調整間差額は第一審原告の主張一のとおりである。)そのため、大多数の組合員にとっては補償事由発生時から一定期間の補償額は、昇給延伸に因って生ずる実際の損失額を上まわっており、とくに若年組合員の場合、当初の補償額は実損額を二倍近く上まわり、その上まわる期間も長期にわたることとなること、また右補償額の算出にあたっては昇給延伸によって生ずる退職金における損失も加算されること、補償額の算出につき右の方法がとられているため、これを返戻する場合、その額の算出がはんさであるし、第一審原告のような大組織にとって事務処理をできるかぎり簡略にする必要から、返戻額の算出方法につき右細則による単純比例計算方式が採用されたものであること、しかも、右細則によって返戻額を計算する場合、脱退組合員の在籍年数の計算につき一年未満の端数を一年として脱退者に有利に定めてあるので、補償金の支給がホフマン式計算方法によっていることを考慮しても、右計算による返戻額は、補償金の総額から組合員の資格喪失時までの損失補償相当額を控除した額或はその額に組合在籍中の年五分の利息を付加した額とは一致せず、その額を下まわることが多いことが認められる。右認定を左右するに足る事実の立証はない。」

2  原判決一九枚目裏一行目「2(1)しかしながら、」以下同二一枚目表一〇行目「足りる資料はない。」まで全部を次のとおり訂正する。

「2 ところで、第一審被告佐藤、同浅井に対し各一回目に支給された補償金及び第一審被告山本に対し支給された、補償金の補償事由発生時期は、いずれも昭和三六年七月二〇日前であるから、これらの第一審被告は右補償金につき前示のように返戻義務を負うとはいえ、その返戻額の算定については、当然にそのまま、前記改訂された細則一五条の返戻金算定方式が適用されるべきものではなく、支給をうけた補償金の総額から、組合員資格喪失時までの損失補償相当額(実際の昇給間差額等にもとづき、昇給延伸によって生じた損失金額を計算する。)を控除した金額に、その金額を受領した日から年五分の利息を付して返戻すべき額(以下基本計算返戻額という。)を算出し、その額が前記細則の返戻金算定方式によって算出した返戻金額を上まわるときにのみ、前記細則の返戻金算定方式を適用して返戻額を算出すべきもの(右第一審被告らに有利となる。)と解するのが相当である。

そして、≪証拠省略≫によれば、第一審被告佐藤、同浅井、同山本に対する右各補償金について算出した基本計算返戻額は、前記細則の返戻金算定方式によって算出した返戻額をいずれも上まわることが認められる。右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、第一審原告は、第一審被告佐藤、同浅井、同山本に対する右各補償金について、前記細則の返戻金算定方式により計算された金額の返戻請求権を取得したものというべきである。」

3  原判決二一枚目表一一行目「(六)結論」以下同二二枚目表四行目「立証がないというほかはない。」まで全部を次のとおり訂正する。

「(六) 結論

そうすると、第一審被告佐藤、同三品、同及川、同浅井、同山本、同宮本に支給した補償金及び請求原因(三)3、4の計算関係は当事者間に争いがないから、第一審被告佐藤、同三品、同及川、同浅井、同山本、同宮本に対して原判決添付別紙目録(一)請求額欄記載の額の第一審原告の補償金返戻請求権の成立が認められる。」

二  第一審被告らの主張について

次のとおり付加するほか、原判決理由二(原判決二二枚目表六行目「(一)組合員平等の原則、」以下同二五枚目表四行目「被告らの主張は失当である。」まで全部)を引用する。

(第一審被告らの主張一について)

第一審原告は当初、支給した補償金については組合脱退の場合も返戻させることは考えてもいなかった旨の第一審被告らの主張については、これを認めるに足りる証拠がない。第一審原告の補償金支給、補償金返戻に関する規約、規定、細則に組合員平等の原則に反する点があるとはいえないし、無効と断ずべき理由も存しないこと及び右規約、規定、細則の解釈については引用原判決理由(前記訂正ずみのもの。)のとおりであって、第一審被告らの主張一は採用することができない。

三  遅延損害金

そうすると、第一審原告に対し、第一審被告佐藤は金七万九、一四六円の、第一審被告三品は金七万四、七六八円の、第一審被告及川は金四万〇、三五二円の、第一審被告浅井は金九万〇、六一四円の、第一審被告山本は金六万七、三四〇円の、第一審被告宮本は金五万一、三八〇円の各補償金返戻債務を負うものであるところ、第一審原告が本訴提起前第一審被告らに対し請求をしたと認めるに足りる証拠はないし、その他右各債務の履行期の定めについての立証もない。第一審被告らは、同被告らに対する本件訴状送達の翌日であること記録上あきらかな、第一審被告佐藤、同及川、同山本についてはいずれも昭和四三年六月一七日から、第一審被告三品、同浅井についてはいずれも同年六月一六日から、第一審被告宮本については同年六月一八日から、はじめて遅滞の責を負い民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。したがって、第一審原告の遅延損害金請求中その余の部分は理由がないものといわねばならない。

四、以上の次第で、第一審原告の第一審被告らに対する本訴請求(補償金返戻請求と遅延損害金請求)は、遅延損害金請求のうち一部理由がない前記請求部分を除き、すべて理由があるから認容すべく、右理由のない遅延損害金請求部分は棄却すべきものである。

したがって、原判決中、右と同旨の、第一審被告三品、同及川、同宮本に対する判決部分は正当であり、第一審原告の第一審被告三品、同及川、同宮本に対する本件控訴はいずれも理由がないから棄却すべきものである。

また、第一審被告三品、同及川、同宮本の本件控訴はいずれも理由がないから棄却すべきものである。

原判決中、第一審被告佐藤、同浅井、同山本に対する判決部分は、前記認容すべき請求部分を棄却した点において失当であるから(第一審被告佐藤、同浅井に対する第一審原告勝訴判決部分は結局相当である。)原判決中の右判決部分を主文第二項のとおり変更して、前記認容すべき請求部分を認容し、その余を棄却することとし、また第一審被告佐藤、同浅井の本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野宏 裁判官 後藤静思 日野原昌)

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